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8. 授業のアイディア
20110628『秘花』 瀬戸内寂聴
瀬戸内寂聴は艶な作家です。仏門に入ってもますます魅力的になり、最後まで「花」がありました。仏門に入る人は、一般人より欲望が強い人なのでしょう。最初から枯れている人は、仏を必要としないでしょうから。この作品で描かれるのは、能の完成車世阿弥の老境です。美童であった世阿弥は歳をとっても魅力的な人だったようです。「秘すれば花」、世阿弥は花とは何かと問われて「色気だ。惚れさせる魅力だ」と答えます。色気は分かりますが、「惚れさせる」魅力となると圧倒されます。肉体を超越して、形而上の世界に入っていく世阿弥はこの世とあの世の境界の住人です。寂聴も生あるうちに彼岸と通じていたような人でした。「艶」とは何かという事をこれ程見事に教えてくれる作品はないでしょう。...
8. 授業のアイディア
20080218『個人的な体験』 大江健三郎
大江健三郎がノーベル賞を受けたのは、主に『個人的な体験』を中心とした物語のお陰です。これらの作品の中心になっているのは、「父親を救う障碍児」という構造です。私たちは障碍者を見ると、家族は大変だろうと思うことが多いでしょう。しかし、大江は逆転の思想を提示してくれます。障碍児が家族(父親)を救うのです。そんな事があるのだろうか、と思うかもしれませんが、この作品を読んでいくと必ず納得するでしょう。現実的にも、障碍児を持つ親の中には、子どものお陰で幸せだと語る人が多くいらっしゃいます。「障碍」とは何なのか、障碍者というカテゴリーにある人を収めてしまうことで、私たちは真実を見失っているのではないか、といった重要な事を考えるのに適した作品です。...
8. 授業のアイディア
20110613『高橋悠治対談集』 小沼純一
高橋悠治は作曲家でピアニストですが、非常に魅力的な音楽を紡ぎ出します。この対談集では、種々の人たちとの対談が紹介されています。高橋は遠慮無く思ったことを発言します。それがまた小気味が良く、読んでいて無上に楽しいのです。オーケストラとの共演を余りしない理由として、オーケストラは2回くらい練習してすぐ本番で、その時に流行っている音楽をやるからその場限りでつまらないと斬って捨てます。原発の管理について聞かれると「管理しなくちゃいけないとされるものは、本来は管理できないものだと思う。」と、私たちがなかなか言えないことを思い切りよく断言してくれます。ものの表面を見るのではなく、内部の奥深くにある根本をしっかりと捉えて表現する姿には、彼の音楽が重なってきます。...
8. 授業のアイディア
20130124『ハーバード白熱日本史教室』 北川智子
マイケル・サンデル教授の『ハーバード白熱教室』は有名になりましたが、本作の作者北川智子もハーバード大学で日本史を教える人気教師です。彼女の経歴が興味深いです。帰国子女ではないアジア人女性で、旅行で気に入ったカナダに留学しますが、専攻は数学と生命科学でした。日本史担当の先生のアシスタントを務めることになり、その授業で「サムライ」を扱った時に男の「サムライ」だけが論じられることに疑問を覚えます。そこで大学院では日本史を専攻し、博士課程を終えてからハーバードで日本史を教え始め、人気教師となります。現在ようやく日本でも知られるようになったアクティブラーニングを使い、プレゼン、ラジオ番組制作、映画制作、等の授業を導入します。IBDPとの親和性も高い授業であり、参考になります。...
8. 授業のアイディア
20120809『羆撃ち』 久保俊治
『羆撃ち』は大学を卒業すると共にプロのハンターとなった作者の半生を描いたものです。昨今は熊が街中に出現し、人が襲われるという事件が頻繁に起こっています。そして熊に立ち向かうハンターが不足しています。とは言え、私たちはハンターのことを余り知りません。本作はハンターの仕事とはどのようなものなのか、明確に教えてくれます。何より印象的なのは、斃した獲物の命に対する作者の畏敬の念です。そして、ぎりぎりの所で獲物と戦っている作者の緊張感です。ハンターが、何かが違うと感じた時には、いつも重大な事実が隠されています。私たちが失いつつある「感覚」です。熊を殺すことの是非を論じている今こそ、重要となるテクストであるに違いありません。...
2. Paper 1 設問つき文学分析
物語・小説演習問題2
「設問つき文学分析」の試験準備は、各ジャンルの文章について演習問題を数多く実践することが重要です。ここでは典型的な演習問題を提示しますので、しっかりと分析して答案を作成してみて下さい。解答例も掲載しますが、評価規準に沿って採点してみることも重要です。 試験問題一 物語・小説 演習問題二 遠くに湖水が小さく光っている。古庭の水の腐った泉水を月夜に見るような色である。 湖水の向岸の林が静かに燃え上がっている。火は見る見る拡がって行く。山火事らしい。...
8. 授業のアイディア
20130427『天安門』 リービ英雄
リービ英雄はアメリカ人で、長年日本に住み日本語で作品を書いています。そして、少年期を台湾で送っていたので、彼の中にはアメリカ、日本、台湾、中国という文化圏が存在します。『天安門』はそんなリービの一種のルーツ探しでもあります。台湾人にとって中国は複雑な感情の向く先でしょうし、主人公には個人的に複雑な想いも交錯しています。安部公房は少年時代を満州で過ごしていますが、その跡を探しに行きます。本作は短編集ですが、全ての主人公が何かを探しています。それはリービにとって「自分探し」でもあるでしょうし、我々にとっては「境」が不明瞭になってきた現代において、自分の立ち位置を求める旅でもあるでしょう。...
8. 授業のアイディア
20090630『バカと東大は使いよう』 伊東乾
東大を論じることができるのは、東大を出た者だけだと言われることがありますが、伊東乾は東大出身で東大の教員ですから、十分にその資格があるでしょう。現役東大生の面白い話が紹介されています。「何やったら優くれんの?」と聞いたり、医学に興味がないのに医学部を目指す学生がいたりします。即戦力を求める社会に対して、応用力を鍛えるための教養課程が機能していないと指摘します。かつてハーバード大学に学んでいた久保正彰が、大学寮で「教養とは何か?」と議論になった時、最終結論は「教養とは、喋ることと食べること」であったそうです。ブリヤ=サヴァランではありませんが、「君が何を食べたいか、その場で何を話したいか言ってみたまえ、君の教養度を教えて上げよう」と言えるのかもしれません。...
8. 授業のアイディア
20091225『大人にはわからない日本文学史』 高橋源一郎
高橋源一郎は常に刺激的な作品を書き続けて私たちを挑発しています。このテクストのタイトルもそうです。文学史の解説ではあるのですが、「大人にはわからない」とついているのが重要です。何故大人はダメなのでしょうか。ここで言う「大人」とは単なる年齢のことではありません。文学作品に関して、常識を理解していると考えている「大人」のことです。つまりこの「常識」が曲者です。常識にはベースとなった考え方があります。ではそのベースが覆ってしまったらどうでしょうか。常識は常識ではなくなり、非常識になってしまいます。文学史を考える時に、文学の基本が根底から変わってきていると作者は言いたいのです。それをわかるのは柔軟な思考を持っている者です。硬直した「大人」の思考ではわからないのです。...
7. 文学テクストの指導と解説
文学テクストの解説 『変身』 カフカ
カフカの『変身』は短篇ですが、長篇に勝るとも劣らないだけの内容を持ったテクストです。主人公のグレーゴルはある日突然大きな虫に変身してしまいますが、もちろんSFではなく、暗喩としての変身です。では彼の変身は一体何の暗喩であったのか、そこから見えてくるカフカのメッセージはどんなものであったのか。またグレーゴルの変身だけではなく、実はもっと大きな変身を遂げた者が家族にいます。それは誰か、そして作家の意図は何か。家族そのものの問題も一緒に考えてみます。...
8. 授業のアイディア
20080120『蜘蛛女のキス』 プイグ
「悲しい」ではなく、「哀しい」作品です。テロリストと同性愛者の恋、と書いてしまえば陳腐な感がありますが、切ない恋物語です。同性愛者のモリーナは「ノーマル」な男性しか愛さないので、モリーナの恋は成就することがありません。それ故に彼女(肉体的には男性ですが、心は女性です)の夢は、愛する人の腕の中で息絶えることです。バレンティンは革命的社会主義者でテロリストです。モリーナとは全く違った世界に住んでいながら、二人は監獄の同じ房に囚われていて、モリーナの好きな映画の話が切っ掛けで親しくなります。しかし彼らに未来はありません。 私が勤務していた学校には、いつも数名の同性愛の教師がいました。皆知っていましたが、他の教師と区別なく接していましたし、男性から突然女性になった(本来の性になった)教師もいました。性は白黒はっきりしているものではありません。グレーゾーンに存在している人たちが数多くいます。それを理解するためにも有効な一冊です。...
8. 授業のアイディア
02「逍遙通信第二号」 誌上授業 「真実は一つではない」
「逍遙通信第二号」に寄稿した文章です。パリのインターナショナル・スクールに通う日本人中学生を対象とした「誌上授業」です。ここでは森達也の『世界を信じるためのメソッド』を引用して、「真実は一つではない」ということを説明しています。事実は一つしかありませんが、それを伝えたり、解釈したりすると、主観が入り込んできます。そして、数々の「真実」が作り出されます。この流れを解説して、メディアや政府等の「真実」を鵜呑みにしてはいけないという事を考えてもらいます。自分の頭で考えて、事実はどのようなものであったのか、それに対してどのような「真実」が語られているのか、見極めることが重要です。特にフェイクニュースに満ちた現在では最重要の課題とも言えるでしょう。...